東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9505号 判決 1969年9月26日
原告
小林清治
小林昌枝
代理人
大西保
今泉政信
佐藤敦史
被告
増田稔
本村操
藤沢仁
新興運輸倉庫株式会社
右増田稔、藤沢仁、新興運輸倉庫株式会社
代理人
田利治
右増田稔訴訟代理人、右新興運輸倉庫株式会社につき
田利治訴訟復代理人
後藤孝典
右藤沢仁、新興運輸株式会社につき
田利治訴訟復代理人
岩下昭二
主文
1、被告増田稔、同本村操、同新興運輸倉庫株式会社は、各自、原告小林清治に対し二五三万六〇〇〇円およびうち二三三万六〇〇〇円に対する昭和四一年一一月一九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の、原告小林昌枝に対し二四一万円およびうち二二一万円に対する同日から支払済みに至るまで右割合による金員の各支払いをせよ。
2、原告らの被告藤沢仁に対する請求および被告増田稔、同本村操、同新興運輸倉庫株式会社に対するその余の各請求をいずれも棄却する。
3、訴訟費用は、原告らと被告増田稔、同本村操、同新興運輸株式会社との間においてはこれを五分し、その一を原告らの、その余を右被告らの負担とし、原告らと被告藤沢仁との間においては全部原告らの負担とする。
4、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の申立
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告小林清治に対し三二九万一一三四円およびうち二九九万一一三四円に対する昭和四一年一一月一九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の、原告小林昌枝に対し三一〇万九〇四四円およびうち二八〇万九〇四四円に対する同日から支払済みに至るまで右割合による金員の各支払いをせよ。
2、訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(一) 被告増田稔、同藤沢仁、同新興運輸倉庫株式会社の各答弁
1、原告らの請求をいずれも棄却する。
2、訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決
(二) 被告本村の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
の判決
第二 当事者の主張
一 請求の原因
(一) 事故の発生
訴外小林弘和(以下、弘和という。)は、次の交通事故(以下、本件事故という。)によつて死亡した。
1、発生時 昭和四一年一一月一八日午後三時五分ごろ
2、発生地 神奈川県横浜市港北区篠原町二五八番地先道路上
3、加害車 普通貨物自動車練四な九九八八号
運転者 被告増田稔(以下、被告増田という。)
4、態様 後退中の加害車が佇立していた弘和に接触し、左後車輪で同人の頭部を轢過
(三) 責任原因
被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
1、被告増田は、事故の発生につき、後方の安全確認を怠つた過失があるから、不法行為者として民法七〇九条の責任。
2、被告本村操(以下、被告本村という。)は、加害者を被告新興運輸倉庫株式会社(以下、被告会社という。)から請負つた貨物の運送業務に使用し、自己のために運行の用に供していたものであり、しかして本件事故は、被用者たる被告増田が被告本村の業務を執行中前記過失によつて発生させたものであるから、第一次的には自賠法三条、第二次的には民法七一五条一項による責任。
3、被告藤沢仁(以下、被告藤沢という。)は、加害車の所有者であるが、これを被告本村に貸与して自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。
4、被告会社は、免許を有して貨物自動車運送事業等を営むものであるが、右免許を有しない被告本村をして右事業を請負わせたうえ同被告の前記業務の遂行を指揮監督して加害車を自己の業務に使用し、自己のために運行の用に供していたものであり、しかして本件事故は被告本村の被用者である被告増田が前記2の如き業務執行中の過失によつて発生させたものであるから、第一次的には自賠法三条、第二次的には民七一五条一項による責任。仮に右事実が認められないとしても、本件事故当時、被告会社は被告増田を直接指揮監督してその業務の遂行に従事せしめ、しかして本件事故は、被告増田が被告会社の業務執行中の過失によつて惹起したものであるから、民法七一五条一項による責任。
(三) 損害
弘和は、本件事故によつて即時、前記発生地において死亡した。しかしその損害額は、次のとおり算定される。
1、葬儀関係費 一八万二〇九〇円原告小林清治(以下、原告清治という。)が弘和の葬儀に関して支出した費用である。
2、弘和に生じた損害と原告らによる相続
(1) 弘和の喪失した得べかりし利益 四六一万八〇八九円
(死亡時) 一歳九カ月余
(推定余命) 67.42年(平均余命表による。)
(稼働可能年数) 二四歳から六四歳まで四一年
(収益) 二四歳のとき年三六万三七〇〇円、二五歳から二九歳まで毎年五五万三〇〇〇円、三〇歳から三四歳まで毎年六四万二〇〇〇円、三五歳から三九歳まで毎年七六万一二〇〇円、四〇歳から四九歳まで毎年七八万四〇〇〇円、五〇歳から五九歳まで毎年七五万八三〇〇円、六〇歳から六四歳まで毎年七一万一五〇〇円(労働大臣官房労働統計調査部編・昭和四一年賃金センサス第一巻第二表による。)
(控除すべき生活費) 全稼働期間を通じて収入の五割
(年五分の割合による中間利息の控除)ホフマン式(年別)計算による
(2) 弘和の慰謝料 五〇万円
弘和の死亡による精神的損害を慰謝すべき額は、本件事故の態様、同人の年齢等の事情を考慮すれば、五〇万円とするのが相当である。
(3) 原告らによる相続
原告清治は弘和の父、原告小林昌枝(以下原告昌枝という。)は弘和の母であつて、原告らは弘和の相続人の全部である。よつて、原告らは、弘和の賠償請求権の各二分の一にあたる二五五万九〇四四円をそれぞれ相続した。
3、原告らの慰謝料 各一〇〇万円
原告らは、その第一子である弘和を愛育し、そのすこやかな成長を心から願つていたところ、本件事故により、突然その生命を奪われてしまつた。しかも原告昌枝は、当時、第二子を懐胎していたが、愛児を失つた精神的打撃により流産し、その精神的苦痛は倍加されるに至つた。原告らのこれらの精神的損害を慰謝すべき額は、各一〇〇万円が相当である。
4、損害の填補
原告らは、保険会社から一五〇万円の賠償額の支払いを受けたので、これらを原告らが相続した前記2の損害に各七五万円宛充当した。
5、弁護士費用 各三〇万円
以上により、原告清治は二九九万一一三四円、原告昌枝は二八〇万九〇四四円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは、昭和四二年八月五日、弁護士たる本件原告ら訴訟代理人にその取立てを委任し、謝金として各三〇万円を第一審の判決言渡日に支払うことを約した。
(四) 結論
よつて、被告らに対し、原告清治は、三二九万一一三四円およびこれから前記弁護士費用を控除した二九九万一一三四円に対する事故発生の日以後の日である昭和四一年一一月一九日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告昌枝は、三一〇万九〇四四円およびこれから前記弁護士費用を控除した二八〇万九〇四四円に対する右と同様の遅延損害金の各支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁
(一) 被告増田の答弁
1 請求原因第(一)項、同第(二)項の1ならびに同第(三)項の冒書および4の事実は認める。
2 同第(三)項の1ないし3および5の事実は不知。
(二) 被告本村の答弁
請求原因事実は総て争う。
(三) 被告藤沢の答弁
1 請求原因第(一)項の事実は不知
2 同第(二)項の3の事実は否認する。被告藤沢は、昭和四〇年三月ごろ、被告本村から「銀行ローンで車を買うのだが、自分には銀行の普通預金の口座がないので、貴方の口座を使わせてもらいたい」との申入れを受け、そのころ同被告に貸してあつた四〇万円の回収をはかるためあえて争いたくない考慮もあつたので、右申入れを了承した。こうして加害者の所有名義は被告藤沢になつているが、同被告は、右名義を使用させるにあたつて被告本村から金銭等を受け取つたことはなく、いわんや加害車の運行に関与したことは全くなかつた。
3 同第(三)項の事実中、2の(1)弘和の推定余命および昭和四一年賃金センサスに原告ら主張の如き給与表の記載のあることは認めるが、その余の事実は争う。
4 同第(四)項は争う。
(四) 被告会社の答弁
1 請求原因第(一)項の事実は不知
2 同第(二)項の4の事実中、被告会社が免許を有して貨物自動車運送事業を営むものであることおよび被告本村が右免許を有していないことは認めるが、その余の事実は否認する。被告会社は、被告本村の業務について指揮監督をしたことはなく、車の配車等に関与したこともない。また、被告本村は、被告会社の他にも他社のナイロン、肥料、ビールの運送をしており、被告会社の専属的下請けというわけでもなかつた。
3 同第(三)項中、弘和の推定余命および昭和四一年賃金センサスに原告ら主張のような給与表の記載があることは認めるが、その余の事実は争う。
4 同第(四)項は争う。
三 被告増田、同藤沢および被告会社の抗弁
本件事故発生地の付近には車両の出入りのはげしい建築工事現場があつたのにかかわらず、原告らは二歳にも満たない幼児である弘和を路上に放置していたものであるから、本件事故の発生について原告らにも監護義務をつくさなかつた重大な過失があるので、賠償額を算定するにあたつて原告らのこの過失を斟酌すべきである。
四 抗弁に対する答弁
否認する。本件事故の発生地は行止りの道路上であつて、自動車の通行は絶無であり、かかる道路上に弘和を遊ばせておいても何ら監護義務に懈怠するところはない。
第三 証拠関係<省略>
理由
一(事故の発生)
請求原因第(一)項は、原告らと被告増田との間においては当事者間に争いがなく、<証拠>によつてこれを認めることができる。
二(責任原因)
(一) 被告増田の責任原因
請求原因第(二)項の1については原告らと被告増田との間に争いがないから、被告増田は、不法行為者として民法七〇九条により本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
(二) 被告本村の責任原因
<証拠>によれば、被告本村は、加害車を被告会社から請負つたセメントの運送業務に使用し、これを自己のために運行の用に供していたことが認められるから、自賠法三条により本件事故によつて蒙つた原告らの損害を賠償する義務がある。
(三) 被告藤沢の責任について
原告らは、被告藤沢は加害車を所有してこれを運行の用に供していた者である旨主張し、加害車の所有名義が被告藤沢になつていることは同被告の自認するところであるが、<証拠>によれば、加害車の所有名義が被告藤沢になつていたのは、昭和四〇年三月ごろ、銀行に普通預の口座を持たない被告本村が、銀行ローンを利用して加害者を使用したためであり、しかして同被告が被告本村に自己の口座の使用を了承したのは、事業の建直しに奔走していた被告本村に対する義侠心からであつて、したがつて被告藤沢は、右の口座を使用させたことについて謝礼を受け取つておらず、また被告本村の事業ないし加害車の運行に容喙したこともなかつたことが認められるから、被告藤沢は、加害車の所有名義を貸与した者に過ぎないというべく、他に原告らの右主張事実を認めるに足る証拠はない。はたしてそうとすれば、爾余の点を判断するまでもなく原告らの被告藤沢に対する本訴請求は理由がないといわなければならない。
(四) 被告会社の責任原因
被告会社が運輸大臣の免許を受けて貨物自動車運送事業を経営するものであることおよび被告本村が右免許を受けていないことについては原告らと被告会社との間に争いがない。<証拠>を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
被告会社は、主として宇部興産の製造したセメントの自動車運送を業としていたこと、被告本村は、被告会社の前社長であつた大泉正秋の関係で被告会社の仕事を請負うようになり、昭和四〇年一二月ごろ、資金繰りの関係で事業を法人組織にするべく東新運輸を設立したが、同社は翌四一年三月ごろ倒産したので、被告本村は、その後始末を被告会社に委ねて東新運輸から身を引いたこと、本件事故当時、東新運輸は、社長を被告会社の車両課長であつた工藤金吾が兼務し、ほとんど被告会社の管理下に事業を営んでいたこと、被告本村は、右事故当時、その事業の連絡場所を被告会社の東京営業所に置いて、被告増田らを運転手として雇用し、加害者を含む貨物自動車九台を使用して東新運輸から被告会社が宇部興産の特約店等から発注されるセメント等の運送を請負つていたが、東新運輸から支払われる報酬は被告本村と被告増田ら運転手の人件費相当額にすぎなかつたこと、しかし、被告本村は、被告会社あるいは東新運輸の全くの専属というわけではなく、他にサッポロビールの下請会社である星和運輸の仕事等もしていたこと、もつとも、加害車のみは、被告会社の要請により、被告増田を運転手として被告会社の横浜営業所に常駐させ、その具体的な運行は被告会社に委ねていたこと、本件事故は、被告増田が被告会社の横浜営業所から加害車でセメントを事故発生地の近くのマンションの建築工事現場まで運送した帰途発生したものであるが、右運送は、被告会社が右マンンョシの工事施行者・東海電気工事株式会社の下請会社山二建設株式会社からセメント納入の注文を受けた宇部興産の代理店・松林薬品工業の依頼により行つたものであり被告増田に加害者による右運送を指示したのは、被告会社の従業員小畑某であつたこと
以上の事実が認められる。<証拠判断略>。右事実によれば、被告本村が全く被告会社の専属的下請けをしていたということはできないであろうから、いわゆる元請け下請けの関係という観点のみで被告会社が加害車の運行を支配していたということはあるいは困難であるといえなくもないが、被告本村と被告会社の業務上の関係に本件事故当時における加害車の配車の状況を併せ考えると、こと加害車に関しては被告会社も被告本村と競合、重畳してその運行を支配し(その一徴憑である運行利益を享受し)ていたものとみるべく、したがつて被告会社は、自賠法三条により原告らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任があるというべきである。
三(過失相殺)
被告増田が後方の安全の確認を怠つたまま加害車を後退させ、弘和に接触して右後車輪でその頭部を轢過したことおよび右事故が、被告増田が被告会社の横浜営業所から本件事故発生地の近くのマンションの建築工事現場までセメントを運送した帰途に起つたものであることについては前記のとおりであり、<証拠>によると、本件事故発生地の道路状況および事故発生の状態は次の如く認定できる。
本件事故発生地は、住宅街を東北から西南に通じる非鋪装の市道上であつて、事故発生地点における道路の幅員は四メートルであるが、右地点から東北に数メートル進行すると、その幅員は五メートルに広がる。そしてこの道路が広がつたところの南東側に前記建築工事現場の入口があり、その幅は、7.6メートルである。右道路の西南方は行止りになつており、通常は車両の交通はほとんどなかつたが、本件事故当時は右建築工事の上塗用のセメント等を般入するため右工事現場に一日の数台の小型トラックが出入りをしていた。弘和は、原告らの長男として出生し、事故当時一歳九カ月であつたが、事故のとき原告らは付添つておらず、幅員四メートルの道路を一人歩きしていた。ちなみに、原告らの住居は、事故発生地の西南方約一五メートルのところにある。被告増田は、工事現場において加害車からセメントを下し、被告会社に戻るべく再び加害車を運転して工事現場を出発し、右の入口を出て幅員五メートルの道路を東北方面に向け数メートル進行したところ、同方面から砂を積載した小型トラックが対向進行してきたので停車し、対向車と交換すべく加害車を時速約八キロメートルで約一〇メートル後退させて幅員四メートルの道路に数メートル進入し本件事故を発生させたものである。
以上の事実によれば、弘和の監護者たる原告らにも、近くに建築工事現場がありそこに出入りする車両が右道路を通行することが予想できるのにかかわらず弘和をかかる道路に放置した監護上の過失があり、本件事故の発生については原告らの右過失も寄与しているというべきであるから、いわゆる被害者側の過失として賠償額の算定にあたつて斟酌されなければならない。そして原告らの右過失と被告増田の前記過失を対比すると、その割合はおおよそ一対九と認めるのが相当である。なお、被告本村は、過失相殺の抗弁を提出していないが、過失相殺は当事者の主張の有無にかかわらず証拠上被害者(側)に過失が認められるときは裁判所はこれを賠償額の算定にあたつて斟酌できると解されるから、被告本村の賠償額算定についても被告藤沢を除く被告ら(以下においてはこの趣旨で単に被告らという。)と同じく原告らの右過失を斟酌することとする。
四(損害)
弘和が本件事故によつて即時、前記発生地において死亡したことは原告らと被告増田との間においては当事者間に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間においては<証拠>によつて認めることができる。そしてその損害額は次のように算定される。
1 葬儀関係費
<証拠>によれば原告清治は、弘和の葬儀および初七日の法要に関し、同原告が本訴において請求する一八万二〇九〇円を超える費用を支出していることが認められるが、そのうちには香典返し四万四一二〇円のような明らかに本件事故とは相当因果関係がない支出も含まれているので、右事故により支出を余儀なくされた葬儀関係費用としては一四万円とすべきであるが、原告らの前記過失を斟酌すると、原告清治が被告らに対し請求しうる右費用は一二万六〇〇〇円とするのが相当である。
2 弘和の喪失した得べかりし利益と原告らによる相続
(1) 弘和の喪失した得べかりし利益
弘和が本件事故当時一歳九カ月の男子であることは前に認定したとおりである。そして労働大臣官房「賃金構造基本統計調査報告」によると、昭和四一年度における男子の平均年令別給与額が月間二〇歳から二四歳まで三万三三〇〇円、二五歳から二九歳まで四万三二〇〇円、三〇歳から三四歳まで五万二三〇〇円、三五歳から三九歳まで五万九五〇〇円、四〇歳から四九歳まで六万五五〇〇円、五〇歳から五九歳まで六万四二〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であるところ、弘和は二〇歳に達したころから六〇歳に達するころまで四〇年間稼働し、この間に控え目に見積つて二〇歳から二四歳までは毎年三九万九六〇〇円、二五歳から二九歳までは毎年五一万八四〇〇円、三〇歳から五九歳までは毎年六二万七六〇〇円程度の収入を得ることができるであろうと思われる。そしてこの間に要する生活費を同様の趣旨から右収入額の五割程度とみてこれを右収入額から控除すると弘和が年間得べかりし利益は、二〇歳から二四歳まで毎年一九万九八〇〇円、二五歳から二九歳まで毎年二五万九二〇〇円、三〇歳から五九歳まで毎年三一万三八〇〇円となるが、これをその死亡時において一時に請求するものとして年齢の端数を切り上げて二歳としたうえ年ごと複式ホフマン計算法によつて年五分の割合による中間利息を控限すると、その現価は四〇七万三九五三円となる。しかし前記のように本件事故の発生については弘和の監護者たる原告らにも過失があるのでこれを斟酌すると、弘和が被告らに対し請求しうる逸失利益は三六六万円をもつて相当とする。
(2) 弘和の慰謝料について
死者本人の慰謝料請求権については、これを認める余地がないから、原告らの弘和の慰謝料に関する主張は失当である。
(3) 原告らによる弘和の逸失利益請求権の相続
前記のとおり、原告清治は弘和の父であり、原告昌枝はその母であるから、原告らは、弘和の前記逸失利益請求権の二分の一にあたる一八三万円をそれぞれ相続した。
3 原告らの慰謝料
原告らの弘和の死亡による精神的損害を慰謝すべき額は、前記弘和の年齢、弘和と原告らとの身分関係、本件事故の態様、被告増田と原告らの過失割合等諸般の事情を考慮すると、各一一三万円が相当である(慰謝料額については当裁判所は当事者の請求額に拘束されないと解する。)。
4 損害の填補
原告らが保険会社から一五〇万円の賠償額の支払いを受けたことは、原告らと被告増田との間においては当事者間に争いがなく、その余の被告らとの間においては前記甲第四号証により認められるから、原告らは各七五万円をそれぞれ前記各損害に充当したものとみるべきである。
5 弁護士費用
以上のとおり、原告清治は二三三万六〇〇〇円、原告昌枝は二二一万円を被告らに請求しうるものであるところ、<証拠>によれば、被告らは任意の弁済に応じないので、原告らは、弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に訴訟の提起と追行を委任し、謝金としてそれぞれ訴額の一割を支払うことを約したことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに負担さすべき弁護士費用は、うち各二〇万円とするのが相当である。
五(結論)
よつて、被告藤沢を除く被告らに対する原告らの本訴請求のうち、原告清治の二五三万六〇〇〇円およびこれから前記弁護士費用を除いた二三三万六〇〇〇円に対する本件事故発生の日であることが明らかな昭和四一年一一月一九日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分ならびに原告昌枝の二四一万円およびこれから前記弁護士費用を除いた二二一万円に対する右と同様の遅延損害金の支払いを求める部分はいずれも理由があるから認容し、原告らの被告藤沢に対する請求および爾余の被告らに対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。(並木茂)